横須賀の坂②

1184年、平家が陣を張った「一ノ谷」は前が海、後ろが断崖絶壁で守りが固く、源義経は攻めあぐねていました。そこで義経は後ろの断崖絶壁(鵯越;ひよどりごえ)から攻める計画を立てます。ただ、普段は人も通らず、かろうじて鹿が通るくらいの急坂なので、並み居る関東武者たちも怖気づいてしまいます。そこで登場するのが、われらが横須賀代表、佐原義連(さわらよしつら;もともと三浦氏ですが、横須賀の佐原というところに住んでいるので、その地名を 名乗っている)です。

佐原義連は「こんな坂道は横須賀ではフツウですよ。ウチの庭みたいなもんだ」というようなことを言って、先駆けて鵯越の断崖絶壁を駆け下りていきます。それに勇気づけられた関東武者たちも引き続いて駆け下り、「一ノ谷」の平家を蹴散らしました。カッコイイですね。いわゆる「鵯越えの逆落とし」というヤツです。『平家物語』のなかでも一番のハイライトといっていいのではないでしょうか?

ここで注目していただきたいのは佐原義連のセリフですよ。フツウなら「オレの騎乗は日本一だ!!」とか「オレの度胸は世界一だ!!」とか言いそうなものですが、そうではなく「横須賀の坂はこれくらいの急坂なんだ!!」という「坂道アピール」になっています。わたくしの想像によりますと、佐原義連は日ごろ「横須賀の坂道は急だから・・・」と友達に話しても、(イマイチわかってもらえないな・・・)とモヤモヤした気持ちでいたんではないかと思います。そこでこうした機会が訪れたので、「アピールのチャンスを逃すまい」と思ったのではないでしょうか。

ちなみに『平家物語』では、このあと佐原義連の名前は一度も出てきません。おそらく「一ノ谷の合戦」で横須賀の坂道について十分にアピールできたため、「自分の仕事はもう果たした」というような満足した気持になって、その後の戦(いくさ)ではやる気がなくなってしまったのだと思います。わかりますね、その気持ち。

※10年以上前に『平家物語』を読んだときの記憶を頼りに書いておりますので、間違えているところがありましたらお知らせください。